西日本、姫路に祖母がいます。もともと父の故郷は姫路なのです。
私、ここ、にのちかの本名、圓尾の名字はそこから来ています。
予約の変更で私の外来にかかりたい患者さんは紙にプリントされた圓尾という文字をみて「エンビ先生」とか「ソノオ先生」に、とかっていう人も多くて、困った総務さんは「整形の女の先生」でやっと話を通じさせる事ができると教えてくれました。すみません、やはり挨拶は大事ですね、マルオです。姫路にはマルオっていう名字が多いのですけどね...
数年前、祖母は膝の化膿性関節炎を発症して、いろいろ病院も代わり、治療方法も代わり、最後には2回手術をしてなんとか緩解したものの、膝の痛みに悩まされています。看病していた父に言わせると「最後には膝のお皿を割って、皿を取り出し洗った」のだそうですが、そんなことはないと思います。整形外科医の娘がいるのに、実は父は何にも分かっていないことがよく分かりました。
そんな大変な時期に、私はちょうどイギリスにいて、遠い国から届くニュースのように実感のわかない感覚で話だけをきいていた親不孝の娘(孫)でした。なかなか電話もできず、メールも使わない父とは手紙だけのやりとりでふがいなく、帰国後祖母を訪ねた時には、「何でばい菌が膝にはいっちゃったの?」とか色々問いただしてもあまり覚えていないようで、今ではやっと生活をしていますが、高齢なこともあり、本人も父もあきらめているようです。
つい最近、私の勤めている開西病院で他院から紹介されてきた化膿性関節炎の患者さんをみて、祖母のことをまた思い出しました。この患者さんは2年〜3年にわたって定期的に1〜2週間に1回は膝に注射をしてもらっていた、ということでした。ということは、50〜60回近くは注射された、ということになるのでしょうか? そうか、祖母は実はこの患者さんと同じく、何年にもわたって定期的に膝の注射を受けていたのでしょう。注射の回数が多くなればなるほど、感染する確率が高くなることは、明らかですよね。
もちろん、「注射をしてください」と患者さんが希望されて何十回も注射をするケースもあります。でも、何にも言わずに何年も注射をし続けるドクターにも大きな責任があるのではないかと、あらためて思ったわけです。
日本では、いちおう、注射の効果から考えて、膝のヒアルロン酸の注射は「1〜2週間に一回で5回までを1セット」として一旦やめるように指導されています。それでも患者さんの希望があれば、5回以上続けることもよくあることです。注射は外来のベッドで、1回くるりん、って消毒して、簡単にすぐ終ります。注射をした後は「お風呂ははいらないでください」と一言添えられます。2日間(48時間)お風呂にはいらないようにしっかりすすめているところもあるのだそうです。
イギリスでは、注射は「1ヶ月に1回で3回までが1セット」です。そして患者さんは入院に準じて、手術室準清潔区域(回復室のようなところ、または手術室の中)で、ドクターは清潔操作(滅菌グローブをはいて)で仰々しく、(日本人の私から見れば)おおげさなほど大事に(注射一本がすごく高価なもののように)(いえ、実際高価なんですが)注射されます。決して3回以上されることはありません(保険適応外になります)。注射のあとはバンドエイドそのままでシャワー可です。
アメリカではイギリスにやり方は近そうです。
こちらにも書いてあるように、日本では欧米に比べて簡単に何度でも注射をしていることがよく分かりますよね?
そうです。だから、「膝関節の中の感染」は、欧米で報告されている『関節注射による感染は数千例に一回程度』という話は、そういった厳重な管理下での話であって、実際日本ではもっともっとその頻度や数は多いに違いありません。いや、もし数千例に一回程度の危険なら、私自身の祖母がそうなったり、開西病院で何人もそうなった患者さんを見たりすることはないだろうからです。実際日本vs欧米で感染例を比較してみたらびっくりするようなデータが出てくるのではないでしょうか。
そして、もうひとつ、日本の悪いところ。「24時間〜48時間はお風呂にはいらないで下さい」という、出来そうで出来ない指導をするところです。
私の祖母も「お医者さんにお風呂に入るなって言われたけれども、多分入ってしまったんじゃないかと思うんよ。だから膝の関節に注射したところからばい菌が入ったんじゃないかって先生も言うし」と言っていましたが、お風呂に入らないってすごく難しいでしょ? 私もきっとできません。ほんとうに、ほんとうに、注射したところから感染するのでしょうか?
実は注射した後の注射のあとから(お風呂などにはいったせいで)感染するのではなくて、注射する時に感染することが分かって来ています。つまりは、患者さんが先生の言う事を守らなくてお風呂にはいったから膝にばい菌がはいってしまったのではなく、先生が注射をする時に何らかの形で(皮膚の上に居たばい菌とか先生の手についていたばい菌とか)ばい菌を関節の中に入れてしまったのです。それなのに、先生は責任逃れのために「お風呂」のせいにしているのではないでしょうか。
イギリスの医療について、最近、西日本のテレビ局から私宛に問い合わせがありました。インタビューアーの方、「イギリスの医療は崩壊しているって本当ですか?」と言っていましたが、それは答えはイエスでもありノーでもあります。今回の膝の注射の例をとれば、イギリスでは「3回の注射しかできない」という、考えてみればかなり「せこい=過小医療」の感覚ですが、日本と比べればどうでしょうか。日本ではすべて医者任せであり、やりたければ、色んなことを省略してでも、アウトカムを考えずに何十回も注射することができる「やり過ぎ=過大医療」でもあり、その未来にイギリスよりもずっと不安を感じます。崩壊しているのは日本の医療かもしれません。