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  2007/10/24 最近はまっているもの

小学生の頃からなんだかんだいってずっとよいつきあいが続いている同級生からメールが届いて、「最近何にはまってる?」ときかれました。それでまじめに考えてみたのです。日本に帰って来てから当直の時にテレビは見ちゃいますが、テレビにはまってるなんて俗物的なこと、大きな声では言えない!

はまっているものはですね...

Atul Gawandeというアメリカのお医者さんの書いた「Complications」という本です。断言しましょう、これは次にゼッタイ来ますよ。もう世界各国で訳されて出版されているようですが、台湾語はあるのに日本語はまだなんですね。写真はいろんな言語の表紙です。何なら私が日本語訳をしたいわー。

まるでミステリーを読んでいるかのような、次に進むまではこの本を置けないわ!という状態になります。ご飯を食べるか、トイレに行くか、っていう以外はかぶりつきです。

内容はですね、ある外科医の外科医からみた本当の医療の話です。When doctors make mistakes(医者が間違いを犯すとき)なんていうセクションなんて、そのタイトルからして衝撃的なように、いままで医療者の間でだけ交わされてきた医療者にとっては当たり前で、もう読みながらうんうんうなずいてしまうようなその気持ちとその状況。それを誰にでも(医療関係者じゃなくても)話しちゃうっていうところ。話しちゃうところにびっくりするだけではなくって、ほんとうは、他のひとにもこういう気持ちも分かってもらいたかったって思ってても、それをきちんと1から10まで説明することが不可能だと思ってた自分と、それが出来てしまったこのDr Gawandeにびっくりするわけです。外科医として、いっちばん最初にヒトに体にメスを入れた瞬間。そんなこと、私だって他言したことありません!

Dr Gawandeが書いてます。医者として辛い日があるわけです。全て最善を尽くしてやっているつもりでも、思ったとおりの結果がでない日もあるんですよね。思ったとおりの結果がでない裏には一言や二言では説明のできないいろんな要素が複雑に絡み合っていて、患者さんには「すみませんが期待していたほどはよくなかったかもしれません」って何とかそんな言葉を言ってみても、心の中では、「ああ、あのとき、そしてそう、このとき、そしてあれとあれがこうなれば...」とかって考えているのです。そして一緒のチームのドクターやナース達とはこっそりと話し合うことはできても、そんな一瞬一瞬の心の動きを、家に帰ったって医療関係者ではない、例えば夫、に向かって全部説明するのは無理だと思っちゃっていて、ましてや一般に公開するなんてもってのほかだと思ってた。それをDr Gawandeは流れるような正確かつ分かりやすい文章で書いてみせた。

医療ものにありがちなセンチメンタルに泣かせるような話を書いているのではなく、かといって(まるでテレビドラマのERのように)ドラマチックに仕立て上げているのではなく、そういう医療の世界を冷静に分析している目。

ここまで正直に書いてしまえば、きっと不安になる患者さんだっているかもしれない。医者が神様だった時代はもう終ったと分かっていてもまだそこにしがみつこうとしている、そのほうがうまくいっていたからかもしれません。この本を読むことで患者さんはきっとすこし「実物大の」外科医を理解することでしょう。疲れているお医者さんもいるし、機嫌の悪いお医者さんもいるし、もがいている。神様のような医者や魔法のような薬を求める、全てお任せするから治してくれって放置する、そうやって知らないから誤解をうんでしまうようなことがなくなるのなら、不安になることだっては私はいいことだと思うのです。

Dr Gawande、実名ですし、実際、外科医としてボストンで働いているのですから、一度お目にかかってみたいものです。

投稿者 ninotchka : 21:46 | コメント (7) | トラックバック (0)
  2007/10/12 まちの公共の場でタバコを禁止すると

私がスコットランドをちょうど離れる頃は、以前からだいぶもめていた「公共の場での禁煙法」がスタートした時でした。
つまりは、レストランやパブなど公共の場ではすべてのお店でタバコを吸ったら本人もその店などの経営者も罰せられる法律が始まった頃だったのです。スコットランドより前にすでにアイルランドではこの法律がスタートしていたのですが、イギリス(イングランド)先駆けての開始には賛否両論いろいろあったものでした。ご想像に堅くなく、喫煙者には愛飲家が多く、特にスコットランドでパブと言えば第2の家のようなもの。多くのパブの経営者は禁煙を余儀なくされることで客足が遠のくのではないかとはらはら。今までのように「分煙」にすればよく、禁煙にするほどでもないという意見も。

それから1年経ったのですね。公共の場での喫煙禁止法によってどうなったのか注目される中、こんなニュースが。


これは予想外といえば予想外。なかなか喫煙効果を数字に出して示す事が難しく、それによって禁煙を進めるのも難しかったんですが、こうやってはっきりと事実として示すことができて、がんばったかいがありましたね。心配されていた客足が遠のく→パブの収益がさがるといった悪影響もなかったようですよ。

タバコ=肺癌、という考えしかない愛煙家達にも、ここで警告。実際は肺癌だけでなく心臓なのですね。特に受動喫煙を強いられる友人、家族、お店のスタッフのことを考えると結局被害を被ってるのは吸っているひとの周りの人達。

そんなふうに考えると、タバコを吸っている人の隣にいるだけで、そのひとに’がつんがつん’と暴力をふるわれているのと同じ事なんではないでしょうか。殴られるよりも深くかつ決定的に、副流煙は心臓や肺を傷つけているのでしょう。

体に害がある、って言われてもなかなかやめられない愛煙家でも、こうやって周りに誰も吸っているひとがいなければ、peer pressureと呼ばれるコミュニケーション手段のためのタバコというプレッシャーもないですから、タバコを何となく誘われて吸ってしまうという状態は防げるので、歓迎すべきことなのでは? 結局、愛煙家の人々だって、タバコのない空気は好きなはず...かな。

皆さん、ご存知かどうか、医療関係者には喫煙者が多いです。喫煙の習慣が仲間同士で広まるからでしょうか。それとも、仕事が「やってられないわよね!」状態だからでしょうか(冗談♪)

スコットランドはイギリス大英帝国の北、陸続きではあるものの、地形が異なり、山の多い寒い地域で、その広さや人口は北海道と似通っていたりするのです。北海道でも本州に先駆けて、「北海道内、公共の場での全ての喫煙を禁止」するなんて、カッコイイと思うのですが、いかがでしょう?

投稿者 ninotchka : 19:28 | コメント (4) | トラックバック (0)
  2007/10/07 お風呂にはいったせいで感染したおばあちゃんの膝?

西日本、姫路に祖母がいます。もともと父の故郷は姫路なのです。
私、ここ、にのちかの本名、圓尾の名字はそこから来ています。
予約の変更で私の外来にかかりたい患者さんは紙にプリントされた圓尾という文字をみて「エンビ先生」とか「ソノオ先生」に、とかっていう人も多くて、困った総務さんは「整形の女の先生」でやっと話を通じさせる事ができると教えてくれました。すみません、やはり挨拶は大事ですね、マルオです。姫路にはマルオっていう名字が多いのですけどね...

数年前、祖母は膝の化膿性関節炎を発症して、いろいろ病院も代わり、治療方法も代わり、最後には2回手術をしてなんとか緩解したものの、膝の痛みに悩まされています。看病していた父に言わせると「最後には膝のお皿を割って、皿を取り出し洗った」のだそうですが、そんなことはないと思います。整形外科医の娘がいるのに、実は父は何にも分かっていないことがよく分かりました。

そんな大変な時期に、私はちょうどイギリスにいて、遠い国から届くニュースのように実感のわかない感覚で話だけをきいていた親不孝の娘(孫)でした。なかなか電話もできず、メールも使わない父とは手紙だけのやりとりでふがいなく、帰国後祖母を訪ねた時には、「何でばい菌が膝にはいっちゃったの?」とか色々問いただしてもあまり覚えていないようで、今ではやっと生活をしていますが、高齢なこともあり、本人も父もあきらめているようです。

つい最近、私の勤めている開西病院で他院から紹介されてきた化膿性関節炎の患者さんをみて、祖母のことをまた思い出しました。この患者さんは2年〜3年にわたって定期的に1〜2週間に1回は膝に注射をしてもらっていた、ということでした。ということは、50〜60回近くは注射された、ということになるのでしょうか? そうか、祖母は実はこの患者さんと同じく、何年にもわたって定期的に膝の注射を受けていたのでしょう。注射の回数が多くなればなるほど、感染する確率が高くなることは、明らかですよね。

もちろん、「注射をしてください」と患者さんが希望されて何十回も注射をするケースもあります。でも、何にも言わずに何年も注射をし続けるドクターにも大きな責任があるのではないかと、あらためて思ったわけです。

日本では、いちおう、注射の効果から考えて、膝のヒアルロン酸の注射は「1〜2週間に一回で5回までを1セット」として一旦やめるように指導されています。それでも患者さんの希望があれば、5回以上続けることもよくあることです。注射は外来のベッドで、1回くるりん、って消毒して、簡単にすぐ終ります。注射をした後は「お風呂ははいらないでください」と一言添えられます。2日間(48時間)お風呂にはいらないようにしっかりすすめているところもあるのだそうです。

イギリスでは、注射は「1ヶ月に1回で3回までが1セット」です。そして患者さんは入院に準じて、手術室準清潔区域(回復室のようなところ、または手術室の中)で、ドクターは清潔操作(滅菌グローブをはいて)で仰々しく、(日本人の私から見れば)おおげさなほど大事に(注射一本がすごく高価なもののように)(いえ、実際高価なんですが)注射されます。決して3回以上されることはありません(保険適応外になります)。注射のあとはバンドエイドそのままでシャワー可です。

アメリカではイギリスにやり方は近そうです。
こちらにも書いてあるように、日本では欧米に比べて簡単に何度でも注射をしていることがよく分かりますよね?

そうです。だから、「膝関節の中の感染」は、欧米で報告されている『関節注射による感染は数千例に一回程度』という話は、そういった厳重な管理下での話であって、実際日本ではもっともっとその頻度や数は多いに違いありません。いや、もし数千例に一回程度の危険なら、私自身の祖母がそうなったり、開西病院で何人もそうなった患者さんを見たりすることはないだろうからです。実際日本vs欧米で感染例を比較してみたらびっくりするようなデータが出てくるのではないでしょうか。

そして、もうひとつ、日本の悪いところ。「24時間〜48時間はお風呂にはいらないで下さい」という、出来そうで出来ない指導をするところです。
私の祖母も「お医者さんにお風呂に入るなって言われたけれども、多分入ってしまったんじゃないかと思うんよ。だから膝の関節に注射したところからばい菌が入ったんじゃないかって先生も言うし」と言っていましたが、お風呂に入らないってすごく難しいでしょ? 私もきっとできません。ほんとうに、ほんとうに、注射したところから感染するのでしょうか?

実は注射した後の注射のあとから(お風呂などにはいったせいで)感染するのではなくて、注射する時に感染することが分かって来ています。つまりは、患者さんが先生の言う事を守らなくてお風呂にはいったから膝にばい菌がはいってしまったのではなく、先生が注射をする時に何らかの形で(皮膚の上に居たばい菌とか先生の手についていたばい菌とか)ばい菌を関節の中に入れてしまったのです。それなのに、先生は責任逃れのために「お風呂」のせいにしているのではないでしょうか。

イギリスの医療について、最近、西日本のテレビ局から私宛に問い合わせがありました。インタビューアーの方、「イギリスの医療は崩壊しているって本当ですか?」と言っていましたが、それは答えはイエスでもありノーでもあります。今回の膝の注射の例をとれば、イギリスでは「3回の注射しかできない」という、考えてみればかなり「せこい=過小医療」の感覚ですが、日本と比べればどうでしょうか。日本ではすべて医者任せであり、やりたければ、色んなことを省略してでも、アウトカムを考えずに何十回も注射することができる「やり過ぎ=過大医療」でもあり、その未来にイギリスよりもずっと不安を感じます。崩壊しているのは日本の医療かもしれません。

投稿者 ninotchka : 20:31 | コメント (0) | トラックバック (0)

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