発病から8年もたつと、通っている病院にもいろいろと変化が起こってきます。主治医は昨年、新潟の病院にご栄転。その時無菌室でお世話になった先生が、助教授に昇格されて私の主治医になりました。また病院も大改装。見違えるほどきれいに新しくなりました。あの重々しい完全無菌室は、いまでは姿を消したようです。
新しく建て変わった病院で驚いたのは、まるで呼び出しの声がしないことです。個人情報保護のためでしょう。患者さんの名前が呼ばれることはありません。該当の診療科に行って、診療カード機械に入れる。すると部屋の番号と順番が書かれた紙が出てきて、それを受け取り、液晶の掲示板にその番号が出ると部屋に入っていって診察を受けるという仕組みです。会計も自動支払機ですませますから、病院に入ってから出るまで診療室以外は、音なしでことが進んでいきます。
これは、個人情報の保護という面からは正解でしょう。それに闘病中は呼び出しの声の無神経さに苛立ったものです。しかし、人がほとんど介在しないで機械で手続きを進めていくシステムはぼくなどでもとまどうところがある。ご老人は途方にくれるのではないでしょうか。それに、うるさいのは気がまぎれる分もあります。音のない世界は、どこか死をイメージさせるところがあります。白血病を抱えていた時に、この音なしのシステムだったら、「死のベルトコンベアー」に乗せられたような不気味さを感じて、ぼくは気が滅入っていたと思います。
個人情報をさらけ出され、弱っている患者さんの耳元でたえず大音声が流れている環境はいうまでもなくデリカシーにかけ、快適ではありません。しかし、静謐のなかで機械を相手に手続きをとる環境が、人間的であるとはとてもいえません。患者さんにやさしい環境とは何か。とても難しい問題に思えます。
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