4,5年前のある日のことです。研究室のドアをノックする音が聞こえてきました。ドアを開けると、そこにはさる非常に偉い女性の教授が立っていました。「加齢先生。ちょっとお時間よろしくて。ご相談したいことがあるの」。何事ならんとぼくが驚いているうちに、教授は部屋に入り込んで、すでに椅子に腰をかけています。さすがに偉い先生は違います。
「実はね。あたしの身内の者が慢性白血病に罹ったの。いまはグリベックという薬が出ていてこれが特効薬的に効くそうだけど、とってもお金がかかるのよ。グリベックの投薬か、骨髄移植しか治療法がないと医者がいうわけ。骨髄移植はリスキーだと医者はいうわけ。でも加齢先生をみているととてもお元気そうじゃない。だからあたし迷っているのよ」。
大切な相談なので無責任なことはいえません。グリベックという薬の存在については、私も入院中に評判を聞いていました。たしかに特効薬的な効果があるようですが、当時はまだ保険適用外でべらぼうにお金がかかったはずです。教授の逡巡もよく理解できます。しかし骨髄移植は命を落とす危険がつきまといます。私はグリベックの投薬を勧めました。
この薬もいまは保険が効くようです。どれだけの費用がかかる薬なのか。ネットをみていたら驚くような情報がありました。慢性骨髄性白血病のご主人をもつ女性のサイトです。グリベック一錠3500円。一日に6錠服用。この薬の代金だけで月に60万円かかる計算になります。高額医療費として還付される部分があるにしても、この負担は法外なものです。
グリベックは、できてから間がないために薬を中断するとどうなるのかというデータが存在しない。だから患者は薬をやめるわけにはいきません。白血病のような強い病気を押さえ超強力な薬を長期間服用した場合の副作用も心配になります。そのデータもまだ存在しないのです。難病に対する特効薬的な薬の出現は、患者さんやそのご家族にとっての大きな福音でしょう。しかしこんな高価な薬を貧しい人たちが服用できるとはとても思えません。「地獄の沙汰も金次第」ということばが浮かんできます。なんだかいやな世の中になってきました。
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